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三田薫税理士事務所

弁理士 三田 康成
代表・弁理士 三田 康成
特定侵害訴訟代理業務付記

  

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2016年04月05日

特許に関する基礎知識(特許成立のしやすさと権利範囲について)

1.特許についての基礎知識
 出願人が権利(特許権)を欲する内容を【特許請求の範囲】に記載します。
 特許庁審査官は、その内容に基づいて権利を付与できるか否かを判断します。
 特許権が付与されれば、第三者が【特許請求の範囲】に記載されている内容を実施(製造等)する行為が特許権侵害(権利侵害)となり、特許権者から損害賠償等を請求されることとなります。

2.【特許請求の範囲】の記載されている内容の特許成立のしやすさと権利範囲について(鉛筆の例)
 仮に、世の中のすべて鉛筆は、断面形状が「円形」だったとします。
 しかしながら、断面形状が「円形」では転がりやすいという欠点がありました。
 そこで、ある人が、断面形状が「六角形」の鉛筆を考えました。
 この場合、【特許請求の範囲】に「断面形状が六角形である鉛筆。」と記載して晴れて特許が成立したとします。その後、第三者が「断面形状が三角形の鉛筆」を実施しているのを発見しました。
 このパターンでは、その第三者に対して損害賠償等を請求できる可能性は低いです。「三角形」は「六角形」ではないからです。

 そこで、このような事態に陥らないように、【特許請求の範囲】に「断面形状が多角形である鉛筆。」というような記載をしておくことが望ましいと言えます。「多角形」は「三角形」も「六角形」も含むので、「多角形」であれば「三角形」も「六角形」も権利範囲となるからです。つまり「六角形」と記載するよりも「多角形」とした方が権利範囲が広くなります。
 しかし、「断面形状が多角形である鉛筆。」とした場合、審査官が「断面形状が四角形の鉛筆」に関する公報(従来技術)を見つけたら、特許が成立しません。「多角形」は「四角形」という従来技術を含むので、「多角形」には新規性が無いからです。この場合、「四角形」を含まないように補正して(たとえば「六角形」に限定補正して)、「六角形」であることのメリットがあれば特許が成立する可能性があります。
 ところが、「六角形」に限定補正して特許が成立した場合は、上述のように「断面形状が三角形の鉛筆」には権利が及ばない可能性があります。この場合、「六角形又は三角形」とするのが望ましいと言えます。
 出願時点では、審査官が引用してくる従来技術を正確に予測することはできません。
 そこで、明細書にはできるだけ多くのパターンを記載しておいて、審査官が引用した従来技術を検討して、できるだけ広い権利範囲を目指すということになります。
 このように、【特許請求の範囲】に広い権利範囲を記載すれば、特許成立後は権利範囲が広くなりますが、特許が成立しにくくなるというトレードオフの関係があります。

3.【特許請求の範囲】の記載されている内容の特許成立のしやすさと権利範囲について(椅子の例)
 ある特許の【特許請求の範囲】に以下の記載があるとします。
 座面と、
 前記座面に結合された脚と、
 前記座面に結合された背もたれと、
を有する椅子。
 この場合、少なくとも「座面」「脚」「背もたれ」がある椅子を製造等する行為が、「【特許請求の範囲】に記載されている内容の実施」、すなわち特許権侵害となります。
 なお上記記載では、「脚」については単に「座面に結合された脚」とあるだけです。形状に関して限定する記載はありません。したがって、「脚」が角柱状でも円柱状でも関係なく、「座面」「脚」「背もたれ」がある椅子を製造等する行為が、特許権侵害になります。同様に数量に関して限定する記載もありませんので、「脚」の本数が3本でも4本でも、あるいは1本でも10本でも関係なく、「座面」「脚」「背もたれ」がある椅子を製造等する行為が、特許権侵害になります。
 さらに上記記載では、たとえば「肘掛け」については何ら言及されていません。このような場合、「座面」「脚」「背もたれ」「肘掛け」がある椅子を製造等する行為は、特許権侵害にならないと考えがちですが、たとえ「肘掛け」を追加しても特許権侵害に該当します。「座面」「脚」「背もたれ」という基本的な構成が押さえられているのですから、それに加えて「肘掛け」を追加しても、基本特許の侵害となります。
 しかしながら、「肘掛け」という限定事項が追加されていますので、「肘掛け」を追加した特許は成立します。ただし、この「肘掛け」を追加した特許の実施行為は、上述しました通り、基本特許の侵害にあたりますので、「肘掛け」を追加した特許を実施するには、基本特許を実施するためのライセンス契約などを結ぶ必要があります。
 このように、限定事項(発明の構成)が少ないほど権利範囲が広くなりますが、権利は成立しにくくなります。限定事項(発明の構成)を増やせば権利範囲が狭くなりますが、権利は成立しやすくなります。
 どこまで限定すれば特許が成立するようになるのかは判りません。そこで、通常、最初は、できるだけ限定事項が少ない内容で出願することで広い権利範囲を狙い、審査官から拒絶理由が通知されたら、その内容を見ながら、特許権が付与されるように限定します。なお、審査官が拒絶理由を通知する回数というのは、通常1回限りですから、最初の内容を無闇矢鱈に広くしておくと、ちょうど良いあんばいの限定ができなくなりますので、最初の内容につきまして、どの程度限定しておくかというバランスが重要になります。
 なお限定事項(発明の構成)を増やして権利範囲を狭めることで特許が成立しても、その特許を実施することで、限定事項(発明の構成)が少ない基本特許の侵害に該当するようでは、基本特許を実施するためのライセンス契約などを結ぶ必要がありますので、この点も十分に注意しつつ、できるだけ広い権利範囲を取得することがとても重要です。